前回、肥満ではないのに糖尿病になる要因として、遺伝因子を取り上げましたが、今回は肥満に見えない隠れた脂肪である「異所性脂肪」と、その「脂肪毒性」についてです。
糖質制限などで血糖値をコントロールすることだけが糖尿病対策と思っていたら大間違いです。
とくに脂身の多い豚肉や霜降り牛肉ばっかり食べていると危険ですよ。
肥満に見えなくても、糖尿病へ突き進んでいるかもしれないというお話しです。
脂肪にも目を向けよう!
血糖値を上げるのは糖質だけというのは周知の事実ですし、糖尿病の判定も血糖値が指標になっています。
だから糖尿病予防では血糖値のコントロールに目が行くのは当然ですし、サプリメントなども糖質をブロックするものが多いです。
一方で、肥満が糖尿病リスクになるのも事実ですので、消費するエネルギー以上にカロリーを摂り過ぎないようにしなければならないし、脂肪を溜め込まないようにしなければなりません。
糖質制限をしていれば、豚肉や牛肉はいくらでも食べて良いということではないのです。
脂肪についてのおさらい
糖質・脂質・タンパク質は3大栄養素と言われますが、脂質を含む食品は動物性のバターや、牛や豚の脂身、植物性の油です。
そしてこれらの食品から摂取する脂質のほとんどは中性脂肪です。
※中性脂肪(トリグリセリド/TG。組成は脂肪酸とグリセロール)
脂質は「遊離脂肪酸」として血液中を流れて臓器や筋肉でも使われますが、余った脂質は最終的に脂肪細胞に送られて、貯蔵エネルギーや細胞膜の材料になります。
つまり脂肪はすぐに使われるエネルギー源ではなくて、飢餓状態やブドウ糖が無くなったときのための備蓄なのです。
一方、糖質はブドウ糖に分解吸収されて、すぐにエネルギーとなりますが、長くはとどまらず、使われなかったブドウ糖はグリコーゲンに合成されて肝臓や筋肉に蓄えられます。
そしてグリコーゲンの貯蔵量を超えると中性脂肪に変換されて、やはり備蓄に回されます。
そして不要な備蓄をし過ぎた状態が「肥満」です。
脂肪はどこについていくか
① 皮下脂肪
余った中性脂肪はまず皮下脂肪になります。
皮下脂肪は皮膚の下にある皮下組織につく脂肪で、場所的に外からの衝撃に対するクッションになりますし、体温を逃がさない役割も果たします。
指でつまんでブヨブヨする、一番「デブ」をイメージしやすい脂肪ですね。
② 内臓脂肪
内臓脂肪は、おもに小腸や大腸にくっついている「腸間膜」という部分に蓄積される脂肪です。
皮下脂肪に収まらなくなった脂肪が内臓脂肪につきます。
指ではつまめない、いわゆる「たいこ腹」になります。
さて、皮下脂肪に収まらなくなるって、どれくらいでしょうか?
お腹を見てもお分かりのように、個人差があります。
そして、民族間でも平均的な差があるようです。
どうも私たち日本人は、欧米人に比べて皮下脂肪の容量が少ないようなのです。
そう言えば300kgとか400kgとかの病的な皮下脂肪肥満は、日本人では聞いたことがありません。
皮下脂肪が溜まりにくいということは、内臓脂肪が早くつきやすいと言うことです。
また内臓脂肪は皮下脂肪と比べて、アディポネクチンやレプチンという善玉アディポサイトカインの放出が少なく、糖尿病リスクも高いと言われています。
③ 異所性脂肪
皮下脂肪や内臓脂肪以外の、”本来溜まるはずのない場所”に蓄積された脂肪を「異所性脂肪」(いしょせいしぼう)と言います。
異所性脂肪は2010年ころから注目されている脂肪ですので、一般的にはまだ知らない方のほうが多いかもしれませが、皮下脂肪、内臓脂肪に続く「第三の脂肪」と言われています。
テレビでは「場ちがい脂肪」として紹介されたこともあります。
CTスキャンでも見えませんので、確認するにはMRSという特殊な検査が必要です。
異所性脂肪は第三の脂肪と言われますので、内臓脂肪の容量を超えたらつくと思われがちですが、実際は内臓脂肪と並行して、徐々に蓄積されていくという説もあります。
皮下脂肪が少ない日本人は、異所性脂肪も早くつきやすいということですね。
実はこのことが肥満に見えないのに糖尿病などの生活習慣病を発症しやすいという、日本人の特性になっています。
異所性脂肪がつく場所と脂肪毒性
脂肪毒性とは
異所性脂肪は、インスリンの分泌能やインスリンによる機能を、直接的に低下させるということが分かっており、これを異所性脂肪の「脂肪毒性」と言います。
異所性脂肪がつく場所と、それぞれの場所での脂肪毒性を合わせてご説明します。
下記の場所以外にも、異所性脂肪は心臓の周りにもつき、血管障害につながります。(心臓周囲脂肪)
肝臓
肝臓は、内臓脂肪が溜まる腸間膜の血管と、門脈という組織を通してつながっています。
また、元々肝臓にはグリコーゲンを貯蔵する機能があるため、異所性脂肪もつきやすい臓器です。
肝機能を表す数値に異常が出てきたら、他の臓器や骨格筋へも広がる前に対処しなければなりません。
肝臓細胞に脂肪がつくと、「脂肪肝」と言われる状態になります。
アルコールを摂りすぎると肝機能が低下しますが、お酒も飲まないのに脂肪肝になった場合は、「非アルコール性脂肪性肝疾患」(NAFLD/ナッフルド)と呼ばれます。
さらに重症化して肝硬変や肝がんへと進行していくものを、「非アルコール性脂肪肝炎」(NASH/ナッシュ)と言います。
また肝臓はブドウ糖をグリコーゲンにして蓄えるところですが、異所性脂肪によりインスリンのシグナルが伝わりにくくなり、その機能が低下します。
逆に糖新生が続いて、糖を放出してしまうのです。
膵臓(すい臓)
膵臓にはインスリンを分泌している「膵β細胞」があります。
血液中を流れる遊離脂肪酸が増えると、膵β細胞の中や外側にも、全体的に異所性脂肪がつきます。
異所性脂肪がついた膵β細胞はインスリン分泌能力が低下します。
そして死んでいき(繊維化する)、膵β細胞の数が減ると、当然インスリン分泌量も減ります。
このようなインスリン分泌能への悪影響は「膵β細胞脂肪毒性」と言って、狭義の「脂肪毒性」とされています。
骨格筋
骨格筋とは、意識的に動かすことのできる筋肉です。
筋肉の中の脂肪は、脂肪細胞が筋細胞の間に入り込んでいるものと、筋細胞そのものに入り込んでいる脂肪があり、厳密には後者のほうが異所性脂肪になります。(脂肪筋)
筋細胞に異所性脂肪がつくと、インスリンのシグナルが伝わりにくくなり、ブドウ糖の取り込みがうまくいかなくなります。
つまりインスリン抵抗性が増すということです。
インスリンが分泌されたときの、糖の取り込みの80%以上は骨格筋ですので、この影響は大きく、なかなか血糖値も下がりません。
その結果、糖尿病の発症へとつながります。
異所性脂肪がつかないようにするには
糖質を摂り過ぎないことも大事ですが、脂質やカロリーオーバーにも注意しなければならないということが、お分かり頂けたと思います。
内臓脂肪や異所性脂肪がつかないようにするには、規則正しくバランスの良い食生活にすることです。
牛肉や豚肉よりも、魚を多めに。
魚の脂は、異所性脂肪がつきにくく、脂肪毒性を抑えてくれるそうです。
また人は3週間我慢すると、習慣が変わるそうです。
間食をしてしまう習慣などは、それで変えましょう。
時間が不規則なシフト勤務の方などは、やはり生活習慣病リスクが高いそうですが、自分なりに工夫してみましょう。
そして、やはり運動は必要です。
少なくとも、意識的に「歩く」ことはできるでしょう。
ついてしまった脂肪はどう減らす?
異所性脂肪を減らすには、激しく短い運動をたまにするより、軽い運動でも長く継続することが有効だそうです。
やはり、運動と食生活なんですね。
減らすのも、つかないようにするのも、方法はあまり変わりません。
異所性脂肪や内臓脂肪は、皮下脂肪に比べて減らしやすい脂肪ですので、脂肪毒性に侵される前に、早く対処することが大事です。
ちなみに筋肉をつけるには筋トレが有効です。
筋トレの後、良質なタンパク質を補給すると良いですよ。
がんばってください。
今回の記事を書くにあたっては、この本が参考になりました。
著者の小川佳宏氏は東京医科歯科大学教授で、テレビ出演もあり、異所性脂肪のオーソリティです。
素人向けの平易な文章で、たいへん分かりやすいです。
もし興味があれば読んでみてください。