糖尿病を防ぐためには、血糖値に関する正しい知識を持っておくことが非常に重要です。
そんなことは分かっているって聞こえてきそうですね。
しかし、血糖値にもいろいろな種類があって、なにがどうなったら糖尿病確定なのかは、非常に分かりづらいです。
そこで今回は、血糖値の種類やその計測方法、基準値と、どうなったら「糖尿病」と判定されるのか、詳しくご説明します。
4種類の血糖値と、その基準値
そもそも血糖値とは血液内のブドウ糖(グルコース:glucose)の濃度を示すもので、一般的に血糖値の計測方法は4種類あります。
そして血糖値の基準値も、その種類によって異なります。
ちなみに「基準値」というのは、95%の人がそうである、という数値なので、そうでない人もいますよ、という値だそうです。
4種類の血糖値のうち、よく知られているのは、「空腹時血糖値」と「食後血糖値」ですね。
あとの2つは「75gOGTT」と言われるブドウ糖負荷試験後の血糖値と「随時血糖値」です。
では順番に見ていきましょう。
空腹時血糖値の基準値
空腹時血糖値とは、10時間以上一切食べ物(水以外)を摂取しない状態で測った血糖値を指します。
食事の内容によって数値が左右されるため、検査前夜の夕食後から絶食し、翌日の朝食前の空腹時に検査するのが一般的です。
通常、健康診断や糖尿病の治療効果を判断する上で用いられる血糖値は、この空腹時血糖値です。
空腹時血糖値の正常とされる値は60~109mg/dLです。110~125mg/dLで境界型とされ、126mg/dL以上になると糖尿病型と診断されます。
食後血糖値とその基準値
健康診断や糖尿病の治療効果を判断する上で用いられる血糖値は空腹時血糖値だと言いましたが、空腹時血糖値が正常範囲に近くても糖尿病を発症するといったケースも少なくありません。
その原因となるのは、空腹時血糖値では計測されづらい食後高血糖です。
「食後血糖値」は、食事を開始してから2時間後に測定した血糖値の値をいいます。
一般的に食事で摂取されたブドウ糖は、腸で吸収され血液中に移動します。
その後インスリンの働きによって肝臓や筋肉などの組織に取り込まれ、エネルギーとして利用されるようになります。
そのため食事をすると一時的に血糖値が上昇します。
特に日本人の主食である米のほか、麦、芋などの炭水化物(糖質)を多く摂取すると食後血糖値が上がりやすくなります。
通常、健康な人であれば食後2時間での血糖値は140㎎/dL未満です。
しかしインスリンの異常などによって、血糖値が低下せず140㎎/dL以上の高い値が続く状態の人もいます。この状態を「食後高血糖」といいます。
医療機器・医薬品の製造販売を行うテルモの健康ガイドによると、食後の血糖値の推移は、健康な人であれば、食後1時間後に140㎎/dLぐらいまで上昇しますが、そこからゆっくりと下降を始め、2時間後には100~120㎎/dL前後まで下がり、3時間もすれば100㎎/dLを切ります。
これに対し糖尿病の人は食後1時間後に200㎎/dLぐらいまで上昇し、2時間後には250㎎/dLに達します。
そして食後高血糖の人は食後すぐに血糖値が上昇し、1時間後には糖尿病の人よりも高い220㎎/dLぐらいまで上がります。
しかしその後、急激に下降を始め、3時間後には140㎎/dL前後、7時間後には120㎎/dLまで下がります。
このため、食後高血糖の人は空腹時血糖値では異常にはなりません。
しかし食後高血糖は、糖尿病を発症した初期の段階の特徴として起こることが分かっています。
つまり空腹時血糖値だけではなく、食後血糖値を計測することが糖尿病予防、早期発見にとって非常に重要な役割を果たすと言えるのです。
詳しくはこちらの記事を。
⇒血糖値スパイク(グルコーススパイク)=「隠れ糖尿病」を徹底解説!
75gOGTT(ブドウ糖負荷試験後の血糖値)
この血糖値は糖尿病の診断に用いられる値です。
空腹時血糖値の計測において、正常値を超えた場合の再検査として、この計測方法で血糖値を測ります。
方法は75gのブドウ糖を水に溶かしたものを摂取した上で、1時間後と2時間後に再び採血をして血糖値を測定します。
2時間後の値が200mg/dl以上の場合は糖尿病型となります。
随時血糖値
随時血糖値は、食事の時間と関係なく測定した血糖値の値です。
この値は血糖値がうまくコントロールされているかを判断する際に用いられる計測方法です。正常の場合は140mg/dLを超えることはありません。
200mg/dl以上の値が出た場合は糖尿病型と診断されます。
HbA1c (ヘモグロビンA1c)とその基準値
ここまでご説明してきたように、糖尿病の診断をするに当たり、血糖値の数値は非常に重要なものとなっています。
そして2010年に新たに糖尿病の診断基準に加えられた数値があります。
それがHbA1c(ヘモグロビンA1c)です。
ヘモグロビンとは、血液の赤血球に含まれているタンパク質の一種で、酸素と結合し酸素を全身に送る役目を果たします。
このヘモグロビンの一部は、血液中の糖と結合するという性質を持っていて、ブドウ糖と結合したヘモグロビンが、HbA1c(ヘモグロビンエイワンシー)と呼ばれています。
HbA1cは過去1~2ヶ月の血糖状態の数値を把握できます。
血糖値は計測前の食事の内容や時間によって数値が変化する上、あくまでもその時点での数値に過ぎません。
空腹時血糖値や食後血糖値、随時血糖値など計測方法が1つではないのも、より正しい血糖値を計測するためです。
しかしそのため計測は複数回行わなければならず、不便であることは確かです。
そこで1回の検査で血糖値の状態を平均的に把握できる、HbA1cが脚光を浴びるようになりました。
HbA1cの正常値は6.0%未満とされていて、6.5%を超えると糖尿病型と診断されます。
さらにこの数値が8.4%を超える状態が続くと糖尿病だけでなく、さまざまな合併症を発症する危険があるとされています。(7.0%以上で合併症リスクが増大します)
ちなみにこの数字は、2012年4月からは、日本糖尿病学会によって、一般的な診療におけるHbA1cの表記を国際標準値(NGSP値)にすることになったため、それ以前に使用していた数値(JDS値)よりも約0.4%高くなっています。
また2014年4月以降はNGSP値のみが使われています。
HbA1cのメリットは空腹かそうでないかといったことに関係なく、いつでも検査が可能な点が挙げられます。
また、HbA1cは過去1ヶ月~2ヶ月の血糖状態が分かるため、より正確な血糖値の状態を知ることができます。
例えば1ヶ月前の検査よりも、血糖値は下がっているものの、HbA1cは上がっていたという場合、血糖値が下がったのはその一時のことであり、実際の血糖値の状態はHbA1cの上昇から見て良くない可能性があるということが分かります。
逆に血糖値は上がっていたがHbA1cは下がっていたというのであれば、ここ1ヶ月の血糖値の状態はそれほど悪くはなかったと推測することが可能になります。
つまり他の血糖値はその時点での血糖値の状態。そしてHbA1cは1~2ヶ月の長期的スパンでの血糖値の状態を示すものということになります。
検査結果を見るときは血糖値だけではなく、必ずHbA1cも併せてチェックし、自分の状態を確認するようにしましょう。
詳しくはこちらの記事を。
よく分かるHbA1cの解説|基準値やNGSP値、お手軽測定法も!
糖尿病と診断される基準
日本糖尿病学会によると糖尿病の診断は、慢性高血糖を確認し、その上で症状、臨床所見、家族歴、体重歴などを参考に総合判断されます。
高血糖の判定は以下の検査により判断します。
1.空腹時血糖値の数値が126mg/dl以上
2.75gOGTT(ブドウ糖負荷試験後の血糖値)の数値が200mg/dl以上
3.随時血糖の数値が200mg/dl以上
4.HbA1cの数値が6.5%以上
この中で1~3のいずれかに該当し、さらに4にも該当した場合は糖尿病と診断されます。
また血糖値のみ該当した場合でも糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)か確実な糖尿病網膜症があれば糖尿病と診断されます。
もし1~4のいずれか1つに該当した場合は、「糖尿病型」と診断されます。
その場合は別の日(1ヶ月以内)に以下の検査を実施し、改めて「糖尿病型」と認められれば、糖尿病と診断されます。
・初回の検査で血糖値のみ糖尿病型であった場合
再検査で血糖値、HbA1cの両方、もしくはどちらかが糖尿病型なら、糖尿病
・初回の検査でHbA1cのみ糖尿病型であった場合
再検査で血糖値のみ、もしくは血糖値とHbA1cの両方が糖尿病型なら、糖尿病
出典:日本糖尿病学会
再検査によっていずれも糖尿病型ではないとなった場合は、糖尿病疑いとして3~6ヶ月後に改めて血糖値、HbA1cを再検査します。
境界型糖尿病について
血糖値の検査において、空腹時血糖値とブドウ糖負荷試験後の血糖値で正常にも糖尿病型にもどちらにも属さない数値が出た人を「境界型糖尿病」といいます。
具体的には空腹時血糖値が110~125mg/dl。ブドウ糖負荷試験後の血糖値が140~199mg/dlのいずれか、もしくは両方の数値だった人を指します。
出典:日本糖尿病学会
この数値の人は糖尿病特有の三大合併症(網膜症、腎症、神経障害)にかかるリスクは少ないものの、数年以内に糖尿病を発症する可能性が高く、「糖尿病予備群」とも呼ばれます。
境界型糖尿病は、上述した口渇・多飲といった糖尿病の典型的症状がないため油断しがちですが、数年以内の糖尿病の発症リスクが高いだけではなく、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血を引き起こす動脈硬化になるリスクも高くなるので、十分な注意が必要です。
境界型糖尿病になる要因は、糖尿病と同様に遺伝的な体質のほか、食べ過ぎや運動不足、肥満、喫煙、ストレスなどといった生活習慣によるものが大きいため、日頃から食生活や運動習慣の改善や肥満の解消、禁煙、ストレスの軽減といったことを意識して生活することが重要です。
厚生労働省の「平成26年患者調査の概況」によると、糖尿病は50歳を超えると増えはじめ、70歳以上では男性の4人に1人(22.3%)、女性の6人に1人(17.0%)が糖尿病という結果が出ています。
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